――ここで改めて、THE NINGLERSの音楽スタイルについて解き明かしていきたいと思います。僕自身の場合はとにかく第一印象が〈仙台のAC/DC!〉だったのですぐさまそう口にしてしまったわけなんですけど(笑)、シンプルでオーソドックスなリフを大音量で爆裂させるとなると、どうしてもそれっぽくなる部分というのは必然としてありますよね?


SHINJI:そうですね。あと、ZETSUさんが曲を持ってきてくれた時に、意識的にいろんなアプローチの仕方をしてみようとすると、意外と上手くいかないというか。小賢しいことをしようとしても、結局は自分たちがグッとこないんですよ。自分たちでもカッコいいなと思えて、いちばん燃えるのがコレなんです。シンプルに、でっかい音で。そういうのが結局は心地いいし。


YOJIRO:うん。やっぱりそのへんが、メンバー全員の音楽的な共通点でもあるんじゃないかな。


――各々ちょっとずつ背景が違うのは、これまでの話からも明らかですよね。そもそもは、ややダウナー系のシンガー・ソングライターと、バッドボーイなベーシスト、そしてSIAM SHADEに純情な初期衝動を燃やしてきた2人。だけど重なるのがそこだった、と。ちなみにSHOWRINGさんは元々このバンドのファンだったということですけど、どういうところに惹かれていたんです?


SHOWRING:それはもう単純に、仙台で唯一〈こんな人、いるんだ!〉と思えたバンドだったので。2人ともオーラが半端なかったから。


YOJIRO:言い過ぎだから、それは(笑)。当時のSHOWRINGは可愛いやつで、「ZETSUさん、YOJIROさん」って、結構なついてくれていて(笑)。なんか、それぞれが好きな音楽って、違うといえば違うし、共通してる部分もあるし。ZETSUさんは結構なんでも幅広く聴く人だけど。SHOWRINGだったらスティーヴィー・レイ・ヴォーンとか、SHINJIだったらブライアン・アダムスとか、もっとカントリー的なものとかも聴いてるし。だけど俺たちもそこで、〈カントリーなんて許せねえな〉みたいな感じでは全然ないし、要するにどれも好きなものの範囲のなかにあるものだから、何も否定すべきものはないというか。ただ、そんななかでもやっぱり全員が手放しでカッコいいと思うものがあるわけですよ。たとえばAIRBOURNEとか。


――まさにオーストラリア出身の、AC/DC直系といわれるバンドじゃないですか。


YOJIRO:ですよね。あのバンドがが出てきた時は「こんなバンドが出てきたぞ」ってZETSUさんが音を持ってきてみんなで聴いて、4人全員が「これヤバいね!」ってことになって。

SHOWRING:それ、まだ俺が入る前の話ですよ。バンドが3人編成だった時に、ライヴのオープニングSEで流れてたAC/DCが急に〈そっくりだけど違うバンド〉に変わったことがあって。そのSEがあまりにカッコ良かったもんだから、ライヴ終了後に楽屋に行って「あの曲、何ですか?」みたいな。それがAIRBOURNEだった。


YOJIRO:あ、そうだったっけ(笑)。


――今はスマホのアプリを使えば曲がわかる時代。だけどそうやって誰かに訊かないとわからないというのも大事ですよね。そこで会話が生まれて、同じ音楽が好きな者同士が繋がる切っ掛けになったりするわけで。


YOJIRO:そういうの、ありますよね。あと、やっぱり〈自分たちの音をなんて呼ぶべきか?〉ということについては結構悩んでたんですよ。べつに〈何々ロック〉みたいな名前はなくて構わないんだけど、それこそ誰かに尋ねられた時に説明が難しいじゃないですか。「どんなバンド?」って訊かれて「ロックンロールだよ」と答えることは簡単だけど、それがフィフティーズ的なものを指すこともあれば、ROLLING STONES的なもの、AC/DC的なものもそこに含まれているわけで。


――かといって、メタルではないですしね。


YOJIRO:そうなんですよ。そういえば実は今、仙台のメタル、結構勢いがあるみたいなんですね。メタルのイベントは結構人が入ってたりする。俺自身が心底カッコいいと思うバンドには今のところお目にかかってないんだけど(笑)。ただ、そういう状況ではあるから〈ああ、こんなにメタル好きな人が仙台にもいるんだ〉とか思わされたりすることがあるんだけど、それは全然、自分たちの好きなメタルではなくて。俺らはやっぱ、メタルは暑苦しいのが好きなんで。洒落たお兄ちゃんたちが汗もかかずにピロピロやってるのとかは……あ、話が逸れちゃいましたね(笑)。まあ、このバンドはメタル側の人たちからすれば全然メタルじゃないわけですよ。パンク好きな人たちからはハード・ロック寄りだと受け止められるんだけど。


――わかりやすく言うと、THE NINGLERSと話をしていてAC/DCやGUNS N’ROSES、MOTLEY CRUEの話になることはあっても、DREAM THEATERが話題になることはまずない。だけどTHE DAMNEDの話は出てきてもおかしくない。少し若目のバンドでいえば、先ほど名前の出たAIRBOURNEとかBLACK STONE CHERRYとか。


YOJIRO:BLACK STONE CHERRYもみんなで聴きましたね。なんか……これはあんまり言ってこなかったことなんですけど、そういうふうに自分たちのジャンルみたいなことを訊かれた時には、「俺たち、スタジアム・ロック・バンドだから」と言うようにはしてるんです(笑)。ZETSUさんから「これからはスタジアムで行こうぜ」って提案があったことがあって。最初は何を言ってるのか意味が全然わからなかったけど(笑)。


SHINJI:ストリート系でありつつスタジアム系、みたいな。


YOJIRO:うん。なんつーのかな、自分たちだけが気持ちいいストリートな感じじゃなくて、もっと大きなノリで……。自分たちが酔っちゃうぐらいの爆音で、スタジアムで大観衆を前にしてやってるようなロックをやっていこうぜ、みたいな。そういう話が何年か前にあったんですよ。なんか、その言葉は常に引っかかってますね。実際にスタジアムでやるわけじゃないんだけど(笑)。


――それでも気持ちはスタジアムだ、と?


YOJIRO:そうそうそう。仮にキャパシティは100人であろうとも(笑)。


――最前列の常連客だけ相手にしているわけでもなければ、自分たちの足元を見ながら演奏してるわけでもないということですよね?


YOJIRO:うん。スタジアムでやることを目標にするというのではなく、そういう姿勢でありたいというか。もちろんクラブでやってるようなバンドも大好きだけど、そういう閉ざされたスタンスでやるんではなくて、あくまで気持ちはスタジアムでありたい。


――スタジアム・ロックでありながらルーザー。考えてみればAC/DCにもそういうところはありますよね。あらかじめ売れる前提で作られている音楽ではない。リフとかサウンドの構造以前に、そういうところが似ているのかも。


ZETSU:まさにそこなんです! ストリート色とスタジアム色、両方持っているバンドって誰だろうって考えた時、パッと浮かぶのが俺のなかではAC/DCなんですよ。


SHINJI:それってなんか楽曲だけじゃなくて、ステージでの見てくれというかそういうものも関係してくると思う。せわしく動く感じじゃなくて、どっしり構えてる感じ。堂々たる感じというか。自分たちのギター・リフとかビートの感じというのは、どっちかっていうとそっちに近いんじゃないかと思う。


――しかも現実離れしている巨大さではなくて、共感できるリアリティがある。なにしろ世の中にはルーザーのほうが多いわけですから。そういう意味では歌詞の部分でも今回、よりいっそう振り切っている感じがします。言っていること自体は変わってないけども、行くところまで行き切っているというか。


ZETSU:そうなれてるんだとすれば、本望ですね。どうにか歌詞で上手いこと言ってやろうとか、そういうのはなくなりましたから。


――ZETSUさんは文学趣味もある方だと思いますけど、むしろそれが出なくてもいいという思い切りの良さを感じます。 


ZETSU:そう、そこなんですよ、まさに。最たるものは“LET IT ROCK”ですね。


――いきなり〈アマゾネスババァ〉なんて言葉が出てきますよね、その曲の歌詞には。


ZETSU:そういうのも含めて、自分のなかでは全部リアルなんですよ。〈パタゴニアジジィ〉も登場しますけど、そっちももちろん。完全にこれはブランドのことなんですけど。


――自然志向のエコおやじ気取り、みたいな?

ZETSU:はっきり言えばそういうことです(笑)。


――ただ、単純に〈歌詞が面白いバンド〉というのとも違うと思うんです。ちなみに“BLACKSTONE MAGIC”には〈取り戻せない1971〉というフレーズが出てきますけど、この年号は、もしかして……


ZETSU:俺が生まれた年です。ジミヘン(=ジミ・ヘンドリックス)が死んだ次の年でもあって。歌詞の説明するのはあんまり好きじゃないんだけど、これは原発に関わるものです。福島第一原発が稼働した年もこの年なので。派手なエネルギー。それをジミヘン調に歌詞にしてみたというか。 


――逆に“DIRTY BIG GUN”とかは単純にセックス・ソングのようにも聴こえます。


ZETSU:ですよね。だけど、そんなふうでありながら、実はこっちもダブル・ミーニングで原発の問題と関わりがあるんです。別に反原発論者ではないですけどね。


YOJIRO:うちのバンド、もちろん全員が自信持ってやってるんですけど、歌詞が他のバンドとは絶対違うぞ、という自負は昔からあって。俺が書いてるわけじゃないけど(笑)。ずっとそれは思ってきましたね。実際問題、日本語の歌詞って難しくないですか、わかりやすいがゆえに。俺、英語は全然わかんないんで、外タレの曲ってことになると、POISONの歌詞でもジョン・レノンの歌詞でも同じ……とまではさすがに言わないけど(笑)、音楽的に好きならどんな歌詞の曲でも聴けるんだけど、日本語の場合、サウンドが好きでも歌詞が受け入れ難いものだと、もうそのバンド自体が受け入れられなくなるとことがあって。そういう意味では、俺、日本のバンドの好みって歌詞に左右されるところが結構あるんです。だけどそこで、「うちのバンドの歌詞はカッコいいよ、恥ずかしくねえよ」という気持ちがありますね。あんまり人前ではこういうこと言わないですけど(笑)。


SHINJI:あと俺、加入した当時から思ってるんですけど、日本語に聴こえない言い回しをしてたりもする。なんか哲学的なところもあるし。だから実際、メンバーから〈この歌詞はちょっと違うんじゃないか?〉みたいな意見は一切出ないんですよ。


YOJIRO:とはいえ自分で書けるわけじゃないから、万が一好きじゃないものが出てきても文句は言わないけど(笑)。今回も俺、好きな歌詞、多いっすね。特に“LET IT ROCK”は上位に入るかな。


ZETSU:もうこの際ぶっちゃけますけど、歌詞の師匠というのが誰にでもいると思うんですよ。俺、真島昌利ってやっぱすごいと思うんですよ。テキトーなようでいて実は核心突いてるのかな、みたいな。そういう歌詞だと思ってます、“LET IT ROCK”は。本当にそこを突けてるのかどうかはわからないですけど。


YOJIRO:恥ずかしい人間が集まってやってるバンドだけど、歌詞は恥ずかしくないぞって言えますね。


ZETSU:書く人間には、それでも恥ずかしさってあるんですけどね(笑)。



――面白さに惑わされる歌詞、でもありますよね。でも、たとえば過去の“SATANIC BOOGIE”とかもそうだったけども、実は面白いだけじゃない。今作ではそれがより感じられるんですよ。前作と歌詞を見比べてみると、6年前のほうが、頭が固かったなという気がします。


ZETSU:上手いこと言おうとしてますよね、あの頃のほうが。


――今のほうがぶっちゃけてるというか、ある意味ファンキーであれていて。


ZETSU:こういうふうにしか俺には言えない、みたいな次元に来てる気がしますね。


――で、このアルバムを引っ提げて、今後はどんなことを目指そうとしてるんでしょうか? どんな動きを展開してこうと?


ZETSU:そこなんですよね、問題は。正直、ここでカッコいいことは言えないわけですよ。こういう話になると、急に他力本願にならざるを得ないというか。売れればいいな、みたいなそういう甘い気持ちになるというか(笑)。実際問題、売り方というのは自分たちではわからないし。もちろん売り方はあるはずだと思うんだけど。


SHINJI:もちろんたくさん買ってもらえれば嬉しいけども、結局は、このアルバムを聴いてもらって、本当にこういうのを好きな人にだけ聴いてもらえればいいと思ってる自分もいるし。


――実際、このアルバム発売を機に、急に広告代理店が寄ってくるなんてことは考えにくいですよね。それこそAC/DC好きな人がAIRBOURNEを見つけた時みたいに、好きな人が好きになってくれればいいというか。


YOJIRO:そうっすね。


SHINJI:うん。あと、6年前と違うのは、やっぱSNSがすごく発達してきていて、自分たちの3rdアルバム出るっていう話を表に出した時に、海外の人が「THE NINGLERSのアルバムが出るぞ」ってつぶやいてるのを見たんですよ。若干の人数ではありますけど。意外と日本以外でも聴いてくれてる人がいるんじゃないのかな。そういうところが最近の時代のすごいところだな、とも思ったし。 


――ネットの世界も変わりました。なにしろ前作当時はまだマイスペースの時代でしたからね(笑)。今は、誰かのツイートを他の誰かがリツイートしたことで情報が異常なほどの広まり方をすることもある。それをあてにし過ぎるのは良くないでしょうけど、発信さえしていけば広がっていく可能性があるというのは、信じていいことだと思うんです。


YOJIRO:ですよね。さっきSHINJIが言ってたように、まだ俺たちを知らない誰かが、ファンになるかもしれない誰かが……。たとえばTHE STRUTSの登場とかについても、〈こんなバンドが出てきたんだ!〉みたいな喜びがあったじゃないですか。俺たちはべつに新しいバンドじゃないけど、まだ知らない人がいるなら、なんか〈こういうバンド最近いねえな。ホントにいねえのかな?〉と思ってる人の耳に届けばいいなと思いますね。




SHINJI:実際、アルバムを作ってる時も、売れようとかあんまり考えてないというか。自分たちがホントにカッコいいと思えるものだけを作ってるわけなので。だからもうホント、聴いてくれる人だけ聴いてくれればいいというのが基本的には強いんです。


SHOWRING:うん。とはいえ、たとえばライヴ前とかに新曲がひとつできた時なんかにいつも思うのは〈この曲で乗れなかったらおかしいんじゃない?〉ということで。その精神で、そのまんま作ったようなアルバムなので。これ以上ないぐらいにそういう自信のあるアルバムだから、〈これで乗れなかったら君たち終わってるよ〉ぐらいの気持ちはあります。みんなが終わってるというよりは、この国が終わってるというか。


YOJIRO:言うねえ(笑)。じゃあ終わらせるか、この国を(笑)。


――よし、じゃあオーストラリアに移住しましょう(全員爆笑)。


SHOWRING:でも、生まれる国を間違ったかなって思うことは、ホントにある。生まれてくるべき時代と街を間違ったのかなって。 


――ただ、逆にここが80年代のハリウッドだったなら、何百もあるバンドのうちのひとつで終わっていたかもしれないし、21世紀の仙台だからこそ、このバンドの特性が浮かび上がるという部分もあるのかもしれない。この先、ライヴ1本の評判によって現実が一気に変わっていく可能性だってあるはずだし。


ZETSU:うん。だからこそ1本1本のライヴをしっかりやっていきたいですね。それはもう、ずっと変わらないことだけど。




THE NINGLERS、7月のライブは地元仙台、そして最新作『ROCK'N ROCK LOSER』リリース後初となる東京公演!お見逃しなく!

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最新作『ROCK'N ROLL LOSER』の予約はこちらから→

all photo by 増田勇一(2017.04.16 仙台フライングサン)

ロング・インタビューを引き受けて下さった増田勇一さんに心から感謝申し上げます。ありがとうございました。